棘を包む優しい君に
 子どもの頃は起きたのと同時に人間に戻れた。
 大きくなるにつれ、何かしないと戻れなくなった。

 今は鏡に映ったハリネズミの自分の目と目を合わせるとゆっくり人間に戻る方法が安定している。
 それも番いを持たないまま成長し続けるとやがて人間に戻れなくなってくるらしかった。

 寝て起きた。
 いいや。あの夢が夢じゃなかったのなら夢見心地の時には既に人間だった。
 寝ながらにして人間………。



 考え事をしたいのにオヤジから指令が届いた。

『今日はしっかり仕事をしなさい。
 朱莉ちゃんにも手伝ってもらうから協力してね。』

 ふざけんな。何が『朱莉ちゃん』だ!

『職場に連れてって大丈夫なのかよ。
 犬耳や猫耳をまた見せることになるぞ。』

 前までは見せつけてやれ!くらいに思っていたのに今は立場が変わってしまった。

 ハリネズミ男だと知られることは百歩譲っていいとしても、寝ている時に人間になっていたかもしれない。

 真実が分からない今の状態で『健吾はハリー』だと知られていいのか。

 いや。待て。
 もし………もしも…俺が寝ている時に人間になっていたのなら番いだってこと……になるのか?

 沸騰しそうな脳みそを冷蔵庫に入れて冷却したい。
 冷蔵では間に合わず冷凍したい頭。

 オヤジからメールが返ってきても複雑な思いは解消しなかった。

『データ整理をやってくれれば誰にも会わずに済む。』

 確かに仕事は溜まっている。
 集中したい。

『朱莉ちゃん』とやらは必要無いくらいに。





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