棘を包む優しい君に
7.一緒の休日出勤は
 指定された会議室に行くと既にパソコンと朱莉がスタンバイしていた。

 無理矢理に帰したのが数時間前。
 姿を視界に入れると余計なことを考えそうでパソコンだけを見るように視線を落とした。

「おはようございます。
 先ほどは不可抗力で……すみませんでした。」

「不可抗力?」

 何があったのか判明するのかと期待を寄せたが、期待通りにはいかなかった。

「ハリーくんが可愛くて見とれちゃって、眠くなっちゃったんです。」

「不可抗力ってのは、どうにもならない時に使うんだ。」

「ハリーくんが可愛いのがいけないんです!」

 何を馬鹿なことを。
 視線をパソコンから離さずに操作する健吾の髪がサラリと揺れた。

 意表を突かれて手で払うと、そこには朱莉の手があった。

「何してるんだ。」

 苛立ちを隠せない。

 触れてくれるな。
 俺はお前にこれ以上、振り回されたく無いんだ。

 頑なに朱莉の方を見ずにいると消え入る声がした。

「ごめんなさい。」

 いつも馬鹿みたいに話してくるくせに、なんだよ、この沈黙。
 しかも今にも泣きそうな声。

 居心地が悪くて仕方なく言葉を発した。

「………いや。俺も悪かった。」

 違う。
 こいつの機嫌を取りたいわけじゃない。

 ただ『ありがとう』と『ごめんなさい』はちゃんと言うようにと育てられただけだ。





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