棘を包む優しい君に
 またなんの意味があるのか分からない我慢比べが始まった。

 話した方が負けの気がして無言を貫いた。


 バタンと音がして、振り向けば朱莉がうとうとしていて、持っていた本を机に落としたようだった。
 音にも動じずに朱莉は起きる気配がない。

 昨日はハリネズミの世話を押し付けられ、今日も休みなのに仕事に付き合わされて文句も言わない。

 昨晩は眠れなかったのかもしれない。
 ハリネズミを見たまま気づいたら寝ていたとはどんな状況なのか。

 頭を揺らして眠る朱莉は、このままでは本と同じ末路を辿りそうだ。
 ジャケットを脱いで顔の前に置いてやって、ゆっくりとジャケットの上に乗せた。

 ふふふっと笑う朱莉に、どんな夢を見ているんだか。とこちらの口元も緩む。

 休日出勤なんだから、固い格好でなくても良かったよな。

 ネクタイを緩めるとデータ整理に集中した。

 休日だから心配していた犬耳や猫耳に会うこともないと気づかないまま。





< 20 / 60 >

この作品をシェア

pagetop