棘を包む優しい君に
 腕をつかまれてハッとした。
 覗き込まれた視線は軽蔑の色ではなく心配の色が浮かんでいた。

「顔色が悪いです。大丈夫ですか?
 なんだか……嫌な人でしたね。」

 気づけば嫌な汗をかいていた。
「あぁ大丈夫だ」と座り直して椅子の背もたれに体重をかけた。

 こいつは何か勘づいただろうか。
 どう思っただろうか。
 俺はまた女の記憶を消さないといけないのか。

 じっとりと嫌な汗は額から離れていかなくて不快感をこれでもかと与え続けた。
 それなのに拭く気力も起きなくて力なく声を発した。

「悪かったな。お前にも嫌な思いさせた。」

 記憶を消すのだとしても最後に謝っておきたかった。
 変な奴だけど、案外いい奴だったな。

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