棘を包む優しい君に
20.それから
 穏やかな木漏れ日のような目覚めはもう夢ではなかった。
 そっとキスをすると「ん。もうちょっとだけ」と布団を引っ張る可愛いのを抱きしめる。

「くすぐったいよ。」

 背中にキスをするとさすがに起きたみたいだ。

「ほら。おはようのキスは?」

「もう必要ないんじゃない?」

 クスクス笑っている唇に噛み付いた。
 甘噛みだけど。
 ちょっとだけむくれる顔も見たいんだ。

 それなのにちょっとじゃ済まなくて、しまったな……と後悔する。

「番いになれている間は『お互いに』真実の愛があるって、どうして教えてくれなかったの?」

 たまにむくれて聞いてくること。
 その度に俺は言わされる羽目になる。

 顔を見て言いたくなくて、そっぽを向いて呟くように言った。

「自分の口から言いたかったから。」

「言ってくれたの、私が記憶を消された演技した時だもん。
 本当に記憶を失くしてたら聞けなかったなんて………。」

 あの針はこっそり入れ替えられていたオヤジの針だった。
 親子でも自分の一部でないと記憶が消せなかった。
 それをまんまと利用されたのだ。

「大芝居打っといて何を言ってんだよ。」

 文句を言えば余計にむくれるのだから、朱莉の欲しい言葉くらい言えばいいのだけど。

 催促されて言うのも違うだろうが。

「それに人外と人の組み合わせの場合、人の方が初めてならいいっておかしい!」

「知るかよ。そんなの。」

「だから人外の女の子は毎日のキスでどうにか人の形を保つ人が多いって。」

「まぁ普通、男は早く捨てたがるよな。」

 しまった。一般論でもこういうこと言うと怒るんだった。

「健吾さんは散々、女の人と………。」

 唇を塞ぐとうるさい声が聞こえなくなった。
 過去は仕方ないだろ。過去は。
 俺は、今現在を妬いてるっていうのに。

 待ち合わせすると必ず変な男に声をかけられている。
 毎度のように「俺の女だけど?」って睨みを利かせないといけない俺の身にもなれよ。

 唇を離して朱莉の耳元で囁いた。

「ヤキモチ焼きなところも好きだよ。」

 真っ赤になる朱莉を確認してから、もう一度キスをする。

 例え、キスでしか効力がなかったとしても、朱莉とならハリネズミに戻る暇なんてないだろう?





< 59 / 60 >

この作品をシェア

pagetop