ウラオモテ
 帰った私は、無言の母に出迎えられた。メバルの煮つけを解体して、ゴーヤチャンプルを掻き込んで夕飯を済ませた後、お風呂に入って二階の自室に私が篭るまで、私たちは一度も言葉を交わさなかった。
 そして、階段を上がってくる大きな足音で目を覚ました。「真琴!」怒号で一気に覚醒する。午前二時。
 ベッドに寝そべったままの私を、父親が強引に引き上げる。痛い、と感じることもなかった。そのまま、したたかに壁に背をぶつける。背骨が軋んだ。
 胸倉をつかまれる。ファストフードの匂い。脂ぎった空気。「ええ加減にせぇ!」頬に衝撃。一発、二発。「ちょっとお父さん……」その後ろから母の声。眠そうな、息の上がった訴え。「何をアホなことをしたんや!」すぐ側で喚かれる。三発目。
 黙る。この人に言うことなんてない。「無視するなや! 何しでかしたかお前、わいに言うことあるやろうが!」そういえば最後に会話したのはお正月だっけ。「答えろ!」再び背中が壁にぶつけられた。弾みがついた後頭部も打ち付けられる。目を閉じる。
 きっと殺されることはない。この人だって教員だ。中学生の扱いには慣れてるはず。「――テスト――受験――成績――」まくしたてるこの人の言葉から、そんな単語だけが浮き上がってくる。退屈。後は聞き取る気にもならない。眠たい、睡魔。
 全部お前らのせいだ。
 思い通りになんてさせてたまるか。いつか、いつか、いつか復讐してやる。
 気が付けば明るい。私は部屋に一人きり、ベッドに寝転がっている。
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