オフセットスマイル
 僕が気をとられていると、いわゆるシャッター音が撮影音として響き、珠子は僕の無防備な表情を撮った。

 してやられた、と思った。


「珠子のそんな仕草、見ていて飽きないよ」


「え? どんな仕草?」


 ぽつりと溢したつもりだった。

 撮影された画像を確認していた珠子が、再び僕を捉えた。


「今度は一緒に撮らないか? それとも、珠子を写そうか?」


 海風で、珠子の髪の毛が頬を引っ掻いていた。

 この空も、いつかは夕焼けに覆われ、そしてきっと、あの山焼きのように、夜空を赤く染めるに違いない。

 心に残る景色は、全て繋がっているのであろうか?


「ふーん」

 何やら考えている。しかし、何を考えているのかまでは分からない。遠くのどこかを見て、誰に対してでもなく、珠子はニヤリと微笑んでいる。

「あなたのポスターを作るのよ。別世界で頑張ってるような、憧れの人」


「それなら……、出来あがったら、送ってくれるの?」


「ちゃんと送るわ。宛て先は、カミイ君の実家でいい?」


「……いいよ」


「じゃ、楽しみに待っていて」


 また、人指し指を立てる。今度はメトロノームのような動きはない。


「ごめんね。花束渡せなくて」


「ここに花畑があったことを、覚えていてくれただけでいいよ」


 珠子は立ち上がって、両手を広げて見せた。

 そうだ。ここに花束は確かにあった。彼女の笑顔が浮かぶ。

 僕の方を向いた笑顔。
 僕に贈った花束。


「そろそろ帰ろうか」


 故郷に帰る決心は、もう着いた。

 この海が、空が、永遠に閉じられてもいい……。

 そんな風に、僕は思った。


「やっぱり、もう一枚撮ってもいいかな?」

 珠子はまた、携帯電話を構えた。

 カメラのレンズは、僕を狙っている。






「オフセットスマイル」

花井敬市
 



 < 了 >
 


< 64 / 64 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

千秋の門
ペンコ/著

総文字数/1,817

絵本・童話1ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
  20140516 着手 20140521 粗書 20140522 推敲 20140526 完成
えろ鉛筆
ペンコ/著

総文字数/1,000

ホラー・オカルト1ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
  自作短編集より 抜き出し作品 ホラコン参加作品 (ホラー・コメディ・コンペ)
BORDER【ネタ】
ペンコ/著

総文字数/328

実用・エッセイ(その他)12ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
BORDERって言うドラマ 面白いですね。 20140531

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop