主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
何かの気配を感じた。

それもとても嫌な――背筋がぞわりとして鳥肌が立った主さまは、突然動きを止めて刀を持っていた腕をだらりと下げた。


「十六夜?どうした?」


「銀…何かおかしな気配がしないか」


「さあ、俺には分からんが。何か感じるのか?」


「…」


主さまが考え事をしている間にも敵は向かってきていたが、脇を固める銀が一刀両断の下斬り捨てていき、血しぶきを避けて身を引いた時――銀も何かを感じて耳をぴくぴくと動かした。


「敵…じゃないな」


「…何かが起きている」


主さまが粟立った腕をさすりながら辺りを見回していると、背後で光のようなものがぽうっと光った気がした。

そして突然暗闇よりも暗い穴がぽっかりとできて身を屈めて戦闘態勢に入ったが――


そこから現れたのは、息吹と共に居るはずの次男の姿だった。


「輝夜…?」


「父様…お迎えに来ました。母様が大変なんです」


丸い提灯の中に、青い色をした鬼灯の実が光を放っていた。

その提灯を手にこの世の生き物ではないような表情をした我が息子を見た主さまは、思わず腕を伸ばして抱きしめてその存在を確かめた。


「輝夜なんだな…?」


「はい。父様ごめんなさい…驚きましたよね。でも今はそんなことを言っている場合じゃないんです。母様が大変なんです。だから早く帰って来て下さい」


「息吹が…!?」だ、だが…」


「十六夜、ここは俺に任せておけ。お前は早く息吹の元へ」


「銀…任せた」


「父様、こちらへ」


輝夜が現れた穴を指した次男を無条件で信じている。

最も愛し、傍に置かないと気が狂ってしまいそうなほどに愛しい女の危機に、十六夜は迷わず輝夜と共にその穴へ身を投じた。
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