主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
晴明邸に一瞬で着いた主さまは、驚きつつも輝夜に手を引かれて息吹の元へと急いだ。


…危険な目に遭わないようにと敢えて遠ざけたのに、この様だ。

息吹は倒れ伏して、瞼や手足をぴくぴくさせていた。

深い睡眠に入っているものとすぐに分かったが、朔があまりにも動揺していたため、肩を抱いて息吹から離れさせると言い聞かせた。


「いいか朔、息吹は今まで何度かこういう経験をしたことがある。だがいつもちゃんと戻って来た。息吹が望んだから、きっとこうなっているんだ」


「母様が…?」


「俺の調べものに関係しているんだと思う。…きっと呼応したんだろう」


息吹はすぐに相手の感情に共感して重ねてしまう。

そうしたことで感情が呼応して、息吹が見たいと思う場所へと連れて行ってしまう。


――今もそうなのだ。

息吹は今まさに、花と感情を共有している。


「母様は…危ない目に遭っているわけじゃないんですね?」


「…ああ、違う。今までの経験で言えば、これで命の危機に直面することはない。だが輝夜…よく知らせてくれたな」


それまで主さまの傍で突っ立っていた輝夜はぽろぽろと涙を零して声を押し殺していた。


この人の子として生まれたい――

流れそうになった自分が願い、そして母が自分を生みたいと願ってくれたからこそ、今の自分が在る。

この世で最も大切な人。


「輝夜…こっちへ」


輝夜を抱き寄せた主さまは、同じように朔も抱き寄せて息吹を見守った。

傍から見ると異常な光景だが、主さまは今まで何度か見たことがあったため、ふたりよりは落ち着いて息吹を見守ることができていた。


「…こうなったらここに居る必要もないな。連れて帰ろう」


「十六夜、百合殿は私に任せておくがいい」


「頼んだぞ」


主さまはふたりを離して息吹を抱き上げた。

屋敷に置いていたはずの書物を胸に抱いたまま離さない息吹に額に口付けをして、輝夜が作った穴に身を投じた。
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