主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
「息吹は元気にしているかい?」


「ああ元気元気。主さまも元気だけどそれは聞かないのか?」


「十六夜?ああ、あ奴のことは別にどうでも」


晴明は幼い頃に父母を亡くし、主さまの元で幼少期を過ごした。

よって主さまに対してはかなり辛らつだし毒舌だし、遠慮がない。

雪男は笑って庭の人魚の元に座り込んで戯れている朔たちに目をやった。


「息吹抜きでここに来るとはどうしたことかな」


「いや、輝夜が何か気になることがあるらしくてさ。本人もまだぼんやりとしか分かってないみたいなんだけど、俺たちに話さないんだ。だけど息吹関係だっていうのは教えてくれた」


「息吹関係…あの子はまた何かに巻き込まれようとしているのか?」


「分かんねえ。それを確かめにこっちまで来た。晴明、息吹の星占いをしてくれないか」


晴明は静かに九字印を結び、声を潜めて囁いた。


「あの子の星回りはいつも案じて占っている。悪しきものではないが、何事かに巻き込まれるやもしれぬとは薄々感じていた。輝夜がそれに気付いたと?」


「そうなんだ。息吹にも主さまにも内緒にしてくれって言われて、ふたりには何も言ってない。だから晴明、お前も黙っていてくれ。頼む」


律儀に頭を下げた雪男に晴明は烏帽子を取って袖を払い、腕組をして思案した。


…ああ見えて主さまは聡い。

もう朔たちの異変に気付いているかもしれないが、今は見守っているだけなのだろう。

あの男は不器用で、子供たちへの接し方も不器用そのもの。


「あい分かった。朔、輝夜、こちらへおいで。甘い菓子をやろう」


「お祖父様、人魚にもあげていいですか?」


はしゃぐふたりに頷いた晴明は、ぽんと肩を叩いて雪男を労った。


「そなたは教育係だったな。朔と輝夜だけでなく下の子たちの面倒も見ているのだろう?損な役回りだと思わぬか?」


「あー、まあ損っていうか…俺は主さまと息吹の傍に居られればいいんだ。あいつらも可愛いし、苦じゃない」


ふたりが揃って雪男の隣に座って式神が持ってきた饅頭を大人しく食べ始めた。

かなりの懐きように、晴明の細い目はいっそい細くなった。
< 17 / 135 >

この作品をシェア

pagetop