主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③
「お祖父様、少しよろしいでしょうか」
雪男と朔が晴明の所有する本が収められている本棚の前で何を借りていこうかと相談し合っていた時、輝夜がそれを見計らったかのようにそっと晴明に声をかけた。
「ああいいよ、どうした?」
「母様のことです。お祖父様…夢を見たんです。幽玄橋の前に女の方が立っていて…ずっとこちらを見ているんです。それがとても…」
「とても…なんだい?」
「とても…母様に…似ていて…」
――ぴんときた。
輝夜が言いたいことに気付いた晴明は、輝夜を膝に乗せてあやすふりをしながら小さな声で問いかけた。
「そなたはそれが何者か分かったということだな?」
「…はい。あの方は…」
「…そうか。とうとう現れたか」
息吹はみなしごだ。
幽玄橋に生前間もなくして捨てられて、そんな乳飲み子を山姫が拾って主さまの元に連れて行き、主さまが気まぐれに育てた運命に翻弄された子。
「何故今になって…」
「とても…とても心細そうにしておられました。幽玄橋を渡れず、引き返してはまた橋の方を見ていて…。この辺りに住んでいるようなのです」
「そなたはそれをどうにかしようと思ったんだね?」
「今の私にはまだ何もできません。この身に備わった力を十分に発揮することはできません。ですからお祖父様、助けて下さい」
「私が式神を使って調べてあげよう。そなたは朔たちにちゃんとこの話をしなさい。いいね?」
「はい。ありがとうございます」
…大人びた子だ。
今にも掻き消えてしまいそうな儚さを備えた魅力に溢れている。
朔の清廉潔白とした強さとはまた別で、晴明の庇護欲を大いにくすぐった。
「さあ、行っておいで。ちゃんと話がついたら幽玄町まで送ってあげよう」
小走りに駆けていく輝夜の後姿を見送りながら、息吹が再び悩み苦しむであろう姿を想像して胸が痛んだ。
雪男と朔が晴明の所有する本が収められている本棚の前で何を借りていこうかと相談し合っていた時、輝夜がそれを見計らったかのようにそっと晴明に声をかけた。
「ああいいよ、どうした?」
「母様のことです。お祖父様…夢を見たんです。幽玄橋の前に女の方が立っていて…ずっとこちらを見ているんです。それがとても…」
「とても…なんだい?」
「とても…母様に…似ていて…」
――ぴんときた。
輝夜が言いたいことに気付いた晴明は、輝夜を膝に乗せてあやすふりをしながら小さな声で問いかけた。
「そなたはそれが何者か分かったということだな?」
「…はい。あの方は…」
「…そうか。とうとう現れたか」
息吹はみなしごだ。
幽玄橋に生前間もなくして捨てられて、そんな乳飲み子を山姫が拾って主さまの元に連れて行き、主さまが気まぐれに育てた運命に翻弄された子。
「何故今になって…」
「とても…とても心細そうにしておられました。幽玄橋を渡れず、引き返してはまた橋の方を見ていて…。この辺りに住んでいるようなのです」
「そなたはそれをどうにかしようと思ったんだね?」
「今の私にはまだ何もできません。この身に備わった力を十分に発揮することはできません。ですからお祖父様、助けて下さい」
「私が式神を使って調べてあげよう。そなたは朔たちにちゃんとこの話をしなさい。いいね?」
「はい。ありがとうございます」
…大人びた子だ。
今にも掻き消えてしまいそうな儚さを備えた魅力に溢れている。
朔の清廉潔白とした強さとはまた別で、晴明の庇護欲を大いにくすぐった。
「さあ、行っておいで。ちゃんと話がついたら幽玄町まで送ってあげよう」
小走りに駆けていく輝夜の後姿を見送りながら、息吹が再び悩み苦しむであろう姿を想像して胸が痛んだ。