主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
幽玄町の屋敷に帰り着くともう夕暮れ時が近く、庭には多くの百鬼たちが集結していた。


「坊たち、雪男とお出かけしてたんですかい」


「うん。沢山食べすぎた」


はははと笑い声が上がり、その中主さまは縁側に座って雪男を人差し指で招き寄せた。


「おお…追及が始まってしまう…」


「頑張れ」


朔たちに励まされて主さまの前に立った雪男はなるべく平静を装って腕を組んだ。


「なんだよ、危ない目には遭わせなかったぞ」


「…そんな心配はしていない。どこへ行っていた?」


「晴明んとこ。勝手に橋を渡ったのは悪いと思ってるよ。でも会いに行きたいってふたりが言うからさ、仕方ないだろ」


「……晴明?」


「父様の所に行ってたの?なら安心だね主さま。帰りが遅いからどこに行ってたのかなってちょっと心配しちゃった。ごめんね雪ちゃん」


「んや、こっちこそごめん、少し遅くなった」


――主さまは、ちらちらとこちらの様子を窺っている朔たちに目をやった。

するとふたりがぱっと目を逸らしたため、これで疑いは確信となったが…敢えてそれを追求せず立ち上がった。


「…ならいい」


「じゃあ俺は銀と百鬼夜行の道程決めてくる」


主さまの小さな変化に気付いた息吹は、夫婦の部屋に入って天叢雲を手に取ってじっと黙っている主さまの帯に手を入れて引っ張った。


「…なんだ」


「なんだ、じゃないでしょ?何か心配なの?」


「…分からない。あいつら何か隠しているが、俺に直接話してくるまでは放っておく」


「ふうん、じゃあ私もそうするね」


ようやく手に入れた息吹が出て行こうとする手を主さまが引っ張って抱き寄せた。

人前では決してしない行動に息吹は腕を回して抱き着くと、主さまを見上げた。


「やっぱり心配なんだね」


「…お前のことも、朔たちのことも心配だ」


「心配ばかりしてると禿げるからやめてね」


ころころと笑って出て行った息吹に小さく笑んだ主さまは、気を引き締めて百鬼夜行に向かった。

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