主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
主さまは夜から朝にかけて百鬼夜行を行うため、不在になる。

その間は息吹と子供たち、そして雪男と山姫がこの屋敷を守って過ごす。

朔と輝夜は長男と次兄のため、勉学や刀の稽古などをその間に行い、息吹は三番目から下の子供たちの育児に追われる。

朝になると主さまは戻って来るが、ずっと起きているわけにはいかないため、独身だった頃よりは短いが睡眠をとる。

そうすると子供たちと接する時間は本当に限られたものとなり、だからこそ小さな変化に気付くことも多かった。


「母様は父様のことをいつ好きになったのですか?」


雪男が床に寝かしつけ、息吹がふたりが寝入るまで傍に居ようと枕元に座った時、輝夜が急に問うてきたため息吹は少し顔を赤くしながら長い前髪を払って額を撫でた。


「最初からだよ。主さまに拾われて、少しお別れして、また会うまで…ずっと好きだったよ」


「ふうん、父様のどこが良かったのですか?」


「主さまってね、無口だし冷たく見えるけど、すごく優しいんだよ。朔ちゃんたちにも優しいでしょ?」


ふたりが頷くと、息吹は昔を思い出して、少し唇を尖らせた。


「でもね、夫婦になるまでの間に色々あったんだよ。特に女の人問題。朔ちゃんたちも父様みたいに女たらしになっちゃ駄目だからね。ひとりの女の人をずっと愛してあげてね」


「はい」


朔が隣の輝夜に手を伸ばして握った後目を閉じた。

ふたりとも吸い込まれるように寝入り、そっとその場から離れた息吹は、雪男と居間に移って茶を飲みながら最近色々聞いてくることの多いふたりのことを話題にした。


「今日は雪ちゃんに迷惑かけなかった?」


「あー全然。なあ息吹…さっきの話だけど、拾われた時のこと…話聞いてもいいか?」


息吹は目を瞬かせた後、小さく笑った。


「いいよ」


拾われた時のことなど記憶にはないが、庭の花に目をやりながら口を開いた。
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