主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
雪男の自室から下に続く階段からは生ぬるい空気が漂っていた。

だが怖い、とは思わなかった。

妙な使命感と高揚感に包まれていた輝夜はそのままゆっくり階段を降りて地下二階を降りてさらに下へと降りた。


そして強力な結界が張られている前に立つと、手を伸ばした。


『……誰…』


――やはりここに誰か居るんだ。

確信を得た輝夜はまだ幼く、この結界を突破することができない。

だが頭の中に響いてきた声は明確に自分に訴えかけてきたため、この距離でも会話ができそうだと判断してその場に座り込んだ。


「あなたが私の夢に現れました。あなたの声が聞こえました。あなたは…誰ですか」


『……ねえ…あなた……似てる…』


「え?」


『あなた…私の下弦に…似てる…』


顔も合わせていないのに似ていると言われて戸惑っていると、さらに声は続く。


『私の下弦を…知らない…?』


「下弦…ですか。私は初耳ですが…」


『あなた…血縁でしょう…?とても下弦に似てる…。ここに来て…』


突如結界が撓んだ。

ぐにゃぐにゃと歪んで揺れて――そして弾けた。

こうなってしまったからには結界を張った主さまがすぐに気づいてしまう。

輝夜は素早く立ち上がって消え去った結界の名残を見ながら奥へと急ぐ。


「下弦…多分うちの当主だ…」


件の女が会いたがっている男は、かつて当主だった男。


「急がなければ」


ほとんど走りながら奥にたどり着くと、座敷牢の奥にその女はひっそり座っていた。


世にも珍しい金の髪と青い目をした透き通った透明な印象を受けて、輝夜の足が止まる。


「…うっ」


目が合うなり急に激しい頭痛に襲われて頭を抱えて座り込むと、女――花は檻に近付いて苦しむ輝夜をじっと見つめた。


『ああ…似てる…』


あの愛しい人に。
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