主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
――結界が弾けた気配を感じた主さまは飛び起きると階段に向かって駆けていく間に居間で倒れ込んでいる雪男を横目に見ながら駆け下りた。


「輝夜…!」


結界を解いたのは自分ではなく、あの女。

そしてあの女に輝夜が近付いて、何かが起きている――


「輝夜!」


地下三階に着いた主さまは頭を抱えて呻いている輝夜を抱き起して女――花を狂気じみた眼差しで睨んだ。


「俺の息子に何をした!」


『いいえ…何も…』


それは真実。

花は実際檻に近付いてはいたが、そこから出てはいない。

だが輝夜はここの存在を知らないし、花の存在も知らなければこちらは何も話してはいないのにこうしてここまでたどり着いて花と接触したこと…主さまは混乱しながらも輝夜をここから連れ出さなければと立ち上がった。


「貴様…!この子をどうしようとした!?」


『…何も…していないのよ…。でも…』


――下弦。


確かにそう囁いたその名に主さまは覚えがある。

何かの術を施されて開かないあの本――その表紙に書かれた名…それが下弦だ。

つまりこの女は当主だった男と何かしら縁のある女ということになる。

やはりそうだったかと思ったが、輝夜の苦しみ様が尋常ではなく、主さまは足早にその場を去って階段を駆け上がる。


「雪男!山姫!」


珍しく声を荒げた主さまに山姫がすぐ気付いて駆け寄ってきたが、雪男も一服盛られたらしくまだふらつきながらも主さまの元に駆け付けた。


「なんか、身体が動かな…」


「恐らく輝夜だ。様子がおかしい。輝夜、大丈夫か!」


「父様…わ、うわぁあん!」


混乱しながら泣きじゃくる輝夜をぎゅっと抱きしめた主さまは度重なる異変に落とし前をつけなければとあの書物に向かう決意を固める。


「輝夜…大丈夫だ…怖くないからな…」


――ようやく起き上がることができた朔はその様子を見て、唇を噛み締めていた。
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