甘いチョコとビターな彼
「っ!」
外から聞こえてきた、彼を名前を呼ぶ声。
「あ、おい!猪口!」
先生の制止さえも耳に入らない私は、中庭に続く窓の鍵を開けた。
彼を呼んだ時の女子の声は大きかったのだろう。
今も2人は話している様子なのに、その内容までは聞き取れない。
私の目に映る2人の姿も、彼女は背中を向けている状態で、わかるのは彼の顔だけ。
「────っ!」
一瞬、彼女の体が揺れたその先に見えた光景に、私は喉から感情が零れてしまいそうな感覚に襲われた。
彼の手に、1つの袋が収まっていた。
視線を上げれば、顔を赤くして笑いながら頬をかく彼の姿が視界に映る。
「……っ、」
その顔は、私だけが知っていると思っていた。
私だけのものだと、思っていた。
なんて浅はかで傲慢な考えだったんだろう。
私はチョコくんの彼女でもなんでもないのに。
「でも……っ!」
この気持ちを胸に閉まったまま過ごすなんて、そんなのはもう嫌……!
「おい!?いのぐ────」
遠くに見えていたはずの2人の姿が、気づけばすぐ近くに迫っていた。
「────チョコくん!」
「え?あ、お前……」
私は窓を飛び越えて、2人のいる中庭に立っていた。