政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

わたしは隣のパウダールームから、いつも海外旅行に持って行っているハンズプラスの赤いスーツケースと、国内旅行で使うマイクロモノグラムのキャリーバッグを持ってくる。

赤いスーツケースは、壊れやすいキャスターが日本のトップメーカーのものなのに、東急ハンズのPBだけあってコスパがすこぶるよい。

海外旅行なんて、いつ何時(なんどき)スーツケースだけが世界の果てへ旅立つかもしれないから、こういうスーツケースで充分だ。

……なんて、言ってる場合ではない。

わたしはフレンチカントリーの白木で猫脚のクローゼットから、スーツやワンピなどを次々と取り出して、赤いスーツケースに入れる。

同じシリーズのチェストからもニットや……下着類だって、将吾さんには目もくれずどんどん取り出して、マイクロモノグラムのキャリーバッグに詰める。

「……あとは、後日、家の者に取りに来させますから」

パッキングを終えたわたしは立ち上がった。

「……彩乃」

後ろで茫然自失のまま、固唾《かたず》をのんで見ていた将吾さんが、やっと口を開いた。

「おれの話を聞いてくれ」

……今さら、言い訳なんか聞きたくない。

「将吾さん、お義父(とう)さまやお義母(かあ)さまだったら、家柄とかそんなこと気になさらないと思う」

今のわたしは、戦国の世に敵に塩を送ったという上杉謙信の気持ちだ。

「おまえ……なに言ってんだ?」

戦国武将なんて興味のカケラもないけれど、あなたたちのために「今だけ歴女」になってやるわ。

「わたしのことはまだ挙式前だから、なんとでもなるわ。お義父さまやお義母さまとしっかり話し合って、本当に愛する人を認めてもらって、政略結婚じゃない幸せな結婚をして」

そう、まさしくそれが「正しい結婚」だ。

「……おまえはまだ、おれとの結婚を『政略結婚』だと思っているのか?」

……そうよ。わたしたちの間に、お互いの会社の利益のため以外に、なにがあるっていうの?
わかばちゃんを愛するあなたこそ、そう思ってるんじゃない?

わたしは静かに肯いた。

< 293 / 507 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop