政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

海洋は、将吾さんと中断していた仕事の話を再開させた。

しばらくして、前室に下がるために一礼をしようとしたら、

「ちょっと副社長、失礼します」

そう言って、海洋がわたしの方に振り向いた。

「彩、今夜は豚の生姜焼きをつくっておいてくれ」

あ…あの……思いっきり「私用」なんですけど……?

「おまえが、おれの剣道の試合のときにつくってきた弁当の中によく入ってたヤツだ。
ちょっと濃いめの味付けのあれを、アメリカで食いたくてたまらなかった。帰国したら、おまえに速攻でつくらせようって思ってた」

あ…でも……

「昨日、カレーをつくっておいたのに」

「あ、海老カレーな。先刻(さっき)、出社前に食ってきた。相変わらず美味(うま)かった。
……でも、今夜は豚の生姜焼きだ」

……まぁ、カレーは冷凍してあるから、別に今日食べなくても大丈夫だけど。

圧力鍋を使って野菜類はしっかり溶け込ませているので、一見海老しか入っていないようなカレーだ。二日目以降はじゃがいもの味が落ちるから、大量につくるときはいつもそういうふうにしている。

「わかった」

わたしは彼のリクエストに応じた。帰りに豚肉を買わなくちゃ。

「彩、遅くなってもちゃんと食うから」

わたしは肯いたが、そのとき視線の端に敢えて避けていた将吾さんの顔が入った。
振り向いている海洋からはその顔は見えないが、金剛力士像のお二方をたった一人で体現したすさまじい憤怒の形相でわたしを睨んでいた。

……こ、怖っ。

わたしは一礼して、副社長の執務室から辞去した。

「……副社長、私的なことで失礼しました」

扉の向こうで海洋の声が(かす)かに聞こえた。

< 309 / 507 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop