政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

「……富多君、(おもて)をあげなさい」

公方(くぼう)様……じゃなくて、松濤のおじいさまが厳かに告げた。

「『世界のTOMITA』の御曹司に平身低頭させるとは……それだけで、彩乃は富多家の嫁として失格だな」

松濤のおじいさまの言葉に、わたしは唇を噛み締める。

「いえ、今回の件に関しましては、そもそも彩乃さんがうちを出る羽目になったのが私の不徳の致すところなので、彼女に非はありません」

顔をあげた将吾が、松濤のおじいさまをまっすぐに見据えて言う。

「……なるほど。うちの上の兄貴が見込むだけのことがある(つら)構えだな」

松濤のおじいさまが目を細めた。

「それに、グランドセイコーか……毛唐の血が入ってるわりには殊勝な心がけだな」

わたしが婚約指輪のお返しに贈ったドレスウォッチだ。

今や、将吾にとっての「ビジネスパートナー」である。年配のお偉方との会話の糸口になり、必ずと言っていいほど感心されるから、手放せないようだ。

「どうだ、彩乃なんて、キズモノにされた海洋にくれてやって、新品の女を嫁にしないか?
……いくらでも、条件に合う女を見繕ってやるが」

松濤のおじいさまはそう言って肘置きに左腕を置き、ぐっと身体(からだ)を預けた。

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