異世界征服
「だから槙くんに会いに来た」
その言葉に込められた意は、俺が神託で選ばれた、という事だろう。
これで“神の子”の辻褄が合う。

「神託では何と」
「水鏡を使って、そこに槙くんが映った。それで、『救わうば神の子なり』って」
『救わうば神の子なり』か。
俺がディスを救うと、俺が救世主と、そういうことか。

水鏡というのは水面に姿を映し出したりすることである。
水を使う神託は、神託者の最も必要とするものが表れると言われている。
つまりは彼女には、ディスを救ってくれる者が、今最も必要ということだ。
偶然か必然か、俺はその救世主に選ばれてしまったという訳で……。
ただ、自分にどんな力があるのか知りもしないのに、そんな大役を背負うべきか、少し迷いが生じる。

いつもなら、そんな事で悩む事なんて無いのだが、これは元の話が別だ。
神託で選ばれた世界を救う救世主。
こんな立場になったのは、流石に人生初なのでね。
悩みの一つや二つ、それなりに出来るだろう。

「あの、槙くん!」
「何だ」
ちょっと考え込んでいたか。

「その、図々しいかもしれない。槙くんにとっては関係のない事だし、急に巻き込まれて腹が立っているかもしれない。だけどね、どうしても……!」
話が長い。
ある種の心理として、話が長くなる理由はいくつかある。
今の場合、申し訳無い気持ちがある・切り出しにくい話題・自信がないといった所だろう。

「「一緒に戦ってほしい」」
文から解釈して、こんなとこだと思った。
まさか被るとまでは思わなかったが。

俺たちのセリフが被った事で、張り詰めたような空気もとけて、固くなっていた表情もやわらかくなった。
そんな風に和やかさを帯びた空間で、気が抜けたように、彼女はへにゃあと笑う。
いつものニッとした笑顔とは違う笑顔だった。

「いつでもいいよ、そんな一緒がよかったの?」
「それはお前だろ。戦ってやらなくもないがな」
「ニヘヘ……素直じゃないなあ」
< 16 / 18 >

この作品をシェア

pagetop