御曹司と婚前同居、はじめます
「自分の子が一番可愛いのはどこの親も一緒だろう」

「そうね」


実際にまやかさんは綺麗だし。

彼女は私を見てどう思ったのだろう。こんな平凡な女が婚約者だなんて笑わせるって、心の中では思っているのかな。

そんなことを考えていたら、気分がどんどん沈んでいく。


「ちょっとお手洗いに行ってくる」

「一人で行けるか?」

「それくらい平気よ」


心配してくれるのは嬉しいけれど今は一人になりたい。

転ばないように、それでも足を速めてトイレへと急いだ。

鏡の前に立って自身の顔を見つめる。

もっとしっかりしなくちゃいけないのに。こんなことで動揺していたらこの先やっていけないわ。

はあ、と深い息をつく。そこへ誰かが入ってきた。

振り向くと、今一番会いたくない人間が立っていた。


「どうも」


まやかさんが目礼する。私は小さく頭を下げた。

最悪だわ。

すぐに出ようと扉へ向かう。
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