御曹司と婚前同居、はじめます
「ねえ」


呼び止められ、恐る恐るまやかさんへ向き直った。


「……はい?」

「瑛真さんの肩、まだ治ってないのかしら?」


心配そうに形の良い眉を下げている。


「あと一、二週間の固定は必要だと思います。それから包帯を外してリハビリをするので、まだ少し時間はかかりますね」

「そう……」


瑛真への思いやりを感じて、まやかさんって優しい人なんだな、と思ったのも束の間。


「ほら、私のせいで怪我をしてしまったでしょう? 本来なら美和さんじゃなくて、私が責任を取ってそばでお世話をするべきだと思うのよね」


驚くべき事実を聞かされ、言葉を失くしてしまった。

かばった女性って、まやかさんだったの……?

必要性がなかったから言わなかっただけなのだろうけど、内緒にされていたような気がして嫌な気持ちにさせられる。

だけどその感情は表に出さないように努めた。


「そんなことはないです。婚約者がいる身で、他の女性に介抱してもらうのはおかしいと思いますので」


はっきりとした口調で言いきると、まやかさんは表情を硬くした。

床へ目線を落として溜め息一つつくと、もう一度しっかりと目を合わせてくる。


「あなたのことは別に嫌いじゃないのよ。でもね、私はまだ瑛真さんのことが好きなのよ」


やっぱりそうなんだ……。
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