御曹司と婚前同居、はじめます
またか、と運の悪さを呪いたくなる。


「美和さんに話しておきたいことがあったんだ」

「何でしょうか?」

「まやかさんのことなんだけど」


ぐいっと間合いを詰めて声を潜めた。


「彼女が瑛真に未練があるのは気付いたよね?」


顔を合わせれば色恋沙汰の話ばかりで本当に嫌になる。

冷ややかな顔で「はい」と答える。

こうも不快になる話をしてくる彼には、もう良い顔なんてしなくていいと思った。


「二人にとっても会社にとっても、彼等が結婚する方がいいっていうのは分かっている?」


会社に有益なのは分かる。でも、二人にとって、というのは?

訝しげに創一郎さんを見つめると、裏がありそうな笑顔で返された。


「俺にもよく分からないけど、瑛真は美和さんに恩があるそうだ。だから美和さんのことを振り切れないらしい」


一体何の話をしているの……?


「だから本当はまやかさんのことが好きだけど、律儀に約束を守るために美和さんとの婚約を受け入れているんだよ」


そんな話を信じろというの?

目を細めてあからさまに睨みつけた。創一郎さんは肩をすくめる。


「信じられないかもしれないけど本当の話だよ。まあ、そのうち分かるよ」


意味ありげに微笑む顔に、背筋に冷たいものが走った。
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