御曹司と婚前同居、はじめます
「お話し中でしたか?」

「いや、大丈夫だ。丁度いい。これから契約書にサインを貰おうと思っていたところだ。用意してくれ」

「かしこまりました」


革の光沢が美しいビジネスバッグから紙を取り出した柏原さんは、ダイニングテーブルに万年筆を添えて置いた。


「どうぞ」


椅子を引いたまま、私が座るのを待っている。

柏原さんの元まで歩いて行き、引いてくれた椅子を手で押して元の位置に戻した。


「ここまで来て申し訳ないんだけど、というか連行されたから仕方ないんだけど、私の気持ちは変わっていないから。私のやりたい仕事は介護であってお手伝いさんではないの。分かって欲しい」


私の力強い視線を受けた瑛真はゆっくりと歩み寄ってきた。そして柏原さんを退けて、また椅子を引く。

動こうとしない私に困り顔を見せ、「カフェオレを入れてくれ。豆乳で」と柏原さんに指示をする。


「それでいいよな?」


聞かれて、こくりと頷いた。

私の好きな飲み物までも把握されていて、嬉しいような気持ち悪いような、何とも言えない気持ちになる。
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