御曹司と婚前同居、はじめます
覚悟を決めた私は、そっと瑛真の胸元に手を置いて押し退ける。肌ではなく、包帯の感触が手のひらに伝わった。

万年筆なんて久し振りに使うわ……。

瑛真の痛すぎるくらいの強い視線を浴びながら、微かに震える手で万年筆を握ると契約書にサインをした。


「これでいいんでしょう? 言っておくけど、私は優しくないからね?」


途端に瑛真は満面の笑みになった。あどけない笑顔に毒気を抜かれる。

喜んでもらえるのは悪い気はしないけれど……。


「俺は会社に戻る。美和はここで好きに過ごしてくれ」

「好きに過ごすって……私は荷物を取りに戻らないと」


顔合わせをした後に荷物を運ぶつもりでいたので、ショルダーバッグに入っている財布と鍵、手鏡とリップクリームとハンドクリーム以外持ってきていない。


「何か大事な物でも置いてきたのか?」

「大事というか、生活するうえで必用なもの全て置いてきたんだけど」

「必要最低限のものは既に用意してある。もし他に必要なものがあるなら柏原か俺に言えばいい」

「え……必要最低限のものって……」


困惑している私を置いて、瑛真は寝室へと足を向けた。きっと着替えるのだろう。
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