御曹司と婚前同居、はじめます
「イエスと言えないのなら強行突破するけど、それでもいいのか？」
　


屈んで目線を合わせてきた瑛真の瞳は獲物を狙う獣のようだ。

ホテルで感じた恐怖心がまた襲ってくる。

きっとサインをしなくても、裏で手を回して私を正式雇用することなんていとも簡単なことなのだろう。


「……期間は？」


瑛真の眉がピクリと動く。


「一ヶ月……いや、念のために二ヶ月としよう。無理はよくないんだよな？」


そう、無理はよくない。治りかけで無理をすれば脱臼癖がついてしまう。

今の瑛真を見る限り、私が止めなければどこまででも無理をしそうだ。それが分かっていてここで突き放すのは正直言って後味が悪い。

私の考えていることはお見通しとでも言うように、瑛真の表情は尊大なものだった。

張り合っても意味はないのだと観念した私は深々と溜め息を吐く。

ものは考えようだ。二ヶ月間、住宅に関する仕事を間近で見ることが出来るチャンスだと思えばいいのよね。

まだ社会福祉士の資格が取れずにいるので、福祉住環境コーディネーターの資格があっても相談員として住居のアドバイスをする仕事に就くのは難しい。

またとない機会じゃない。住居付きの仕事よ、コレは。
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