御曹司と婚前同居、はじめます
雨の日は傷が疼きやすい。

言葉には出さないものの、瑛真の表情を見ていれば痛みが強く出ていることくらい分かる。

だからこそ余計に早く雨が止んで欲しいと思う。

瑛真が脱臼したのは雨の日に滑って転んだせいなのだそうだ。

それだけ聞くと間抜けだな、と思うのだけど、きちんと話を聞けばますます瑛真らしいと嘆息してしまった。

雨の日の工事現場で先に足を滑らせたのは同行していた関係者の女性らしい。

階段から落ちかけた彼女をかばい、瑛真は十数段見事に転げ落ちたそうだ。

私を絶対に現場に連れて行かないのはそのせいなのかな。


「おはよう」

「うわっ!?」


物音一つ立てずに背後から抱き締められて心臓が跳びあがった。


「もう! 驚かせないでよ!」


危うくマグカップを落としてしまうところだった。


「一度声を掛けたんだけど」

「へ? そうなの?」

「何を考えていたんだ?」

「別に」

「……嫌になったか? この生活が」


突拍子もないことを言われて面食らった。
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