さまよう爪
今では実母も協力してくれるので、心に余裕ができたのか、LINEのアイコンは我が子だし、タイムランも日々の子供の様子で埋め尽くしているくらい溺愛中。

愛流がこんなことを言うのは、少なからず結婚を控えてセンチな気分になっているのかもしれない。

それでも、ドレスは平愛梨ちゃんと同じなんですよー。と語る彼女は幸せに満ち溢れていた。

気軽な居酒屋だったが、何より良かったのはスタッフだ。

男性スタッフもいるが、女性スタッフがノリがよく明るい。

サービス提供は気も配れてきっちり。

愛流は帰りがけに写真撮影とSNS掲載を訊いていて、ちょうど仲良しな3人組からOKをもらい4人でピースサイン。

わたしはその様子を見ていた。

キラキラしている。



金曜日なんだし、オールで飲む気マンマンだったのにまさかの一軒でお開きになる。

「え、ほんとに?」

もう一件くらい行こうよ。

わたしの誘いに彼女が勢いよくかぶりを振った。

「もうおなかいっぱいですし、肌荒れしたくないので。それに家のひとが車ですぐそこまで迎えに来てくれてるんです」

「ああそう」

家のひと。が、もしかしたら直人かもしれないとハラハラしたけれど、迎えに来たのは彼女の父親。

青いフィット。

「小野田さんアモーレ!」

助手席の窓を開け、シルバーの婚約指輪をはめた手を振り、上機嫌な愛流を乗せ走り去った。
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