さまよう爪
海鮮の鍋もずいぶん立派だった。

ひも付きの帆立が大好きだから嬉しい。

海老も大ぶりで。

海鮮の旨味が出た美味い鍋。

もうちょっとつまみがほしくて、チキン南蛮があったので何気なくお願いしてみたところ、これが当たり。

あつあつの仕上がりにタルタルがたっぷり。

ランチタイムにもご飯と食べたい。

ふと、向かいを見ると愛流は写真撮りも飲み食いもしていない。

「どうしたの?」と尋ねる。

「……結婚したらこうして飲むことができなくなるんでしょうか」

ぽつり、呟く愛流は浮かない表情。

髪をいじり、毛先を、人差し指に巻きつけて。

「それは旦那様に相談してみればいいんじゃないかな。酔って変な行動をしたり、迷惑をかけなければ許されると思うし、だいたい結婚したら女性は遊びに出るべきではないなんて、女性は。ってところが時代にそぐわないよ」

直人はそういうタイプではないだろうし。

「そうですね!」

彼女は安心したようにししとう串をほおばる。

ししとう大好物なんですよ。と八重歯を見せる。

全部食べていいよ。と言うと本当に嬉しそう。

でも子供がいたら変わるかもしれない。

友人が出産して半年経ったくらい。

実母に、『母になったのだから、夜飲みに行くなんてダメ』と言われたらしく『夫だって飲みに行くじゃない。何で母親だからってだけでダメなのよ!』と反発。

そしたら、『父親はいいのよ。仕事の付き合いもあるでしょ?』と。

納得できずに愚痴をこぼしていた。
< 103 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop