さまよう爪
「はい」

「あら、すみれちゃん。なあに? そんな暗い顔して……彼氏さん、今日は居る?」

「いいえ」

訪ねて来たのは中年の女性。このアパートの1
階に住む大家さんだった

「そうなの。元気?」

「ええ……さあどうでしょう」

「あは! 今いないんじゃ、わからないわよねぇ」

「あの、大家さん。今日はどうしたんですか?」

「うん、たいした事じゃないんだけどね。ほらこの前、うちの主人のお友達が海外旅行に行って来たって言ったじゃない?」

「ああ、はい」

「それでお土産をね、たくさんいただいちゃったから……はいこれ、お裾分け!」

「いつもありがとうございます。わぁ……いいんですか、こんなに」

「いいのよぉ! すみれちゃんトコは彼氏さんもいるでしょ? 2人で食べなさい。すっごく美味しいんだから。本場のフランスパン!」

「ほんとに美味しそうですね。ありがとうございます」

「じゃああたしはこれからフラダンス教室があるから」

「ありがとうございました。フラダンスがんばってください」
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