さまよう爪
へったのはもう一つ。

お腹だ。

お昼ご飯を食べよう。

この場合はブランチか。

コンロには、昨日のミートソースが置いてあった。完成はしている。

使いかけのパスタに、冷蔵庫をあさると使いかけの野菜とタッパーに入ったタコわさ。

わたし、タコわさはあんまり食べないんだけどな。

わさびは大丈夫、タコも食べれるけど、タコわさになった途端に食感が苦手になる。

『いいじゃん、俺用に置いといてよ』

直人の好物だった。

もうこれも処分しないとな。

ゴミ袋代わりのビニール袋を用意して、タコわさをうつそうとすると、脳裏に母親の『もったいない!』がよぎった。

……仕方ない、食べるか。

タッパーに入ったタコわさを小皿に盛ると、量は1食分だった。

手でひとつまみ食べてみると、悪くない味だった。これならどうにかなるか。

フランスパンは最初から完成しているものではなく生の白い生地が冷凍されているもので大漁の保冷材と一緒に持ち帰ったものらしい。大家さんはそれを解凍してオーブンで焼いて持ってきてくれた。

鍋にお湯を沸かして、沸騰したら塩を適当にひとつまみ、ふたつまみ入れる。さらにボゴボゴと沸騰が激しくなったのを確認して、パスタを1束分、入れる。

ここが毎回もっとも緊張する。

パスタをねじって離したら綺麗に花が咲くように広がるのを何度挑戦しても、いつもどうも上手くいかず、ボテッと落ちて広がらない。

テレビで観た簡単に出来るらしい方法は、パスタの4/5ほど上のところを握り、その手の上に1/5ほど麺が出てるからそこをもう一方の手でクニュッとひねって、鍋の真中でパッと両手を離す。
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