さまよう爪
「名刺ちょうだい。2枚ね」
何で彼の名前を聞いているのにわたしの名刺が必要なんだろうか、しかも2枚、と思いながらも、いつも持ち歩いている、会社から支給された名刺を2枚取り出して手渡す。
「へぇ、この食品メーカーに勤務してるの? 俺、カレーみそワカメラーメンけっこー好きだよ。小野田すみれさん」
「貴重なご意見ありがとうございます」
フルネームで名前を呼ばれることはなかなかない。
「いえいえ。あ、あとボールペンも貸してもらえます小野田すみれさん」
ペンポーチからボールペンを出し、貸す。
すると彼はわたしの名刺を1枚はスラックスのポケットにしまい、もう1枚は裏返して白紙の面に何かを書き始める。
すぐに「はい」と渡され「あ、どうも」と名刺を受け取り、それに目を通した。
彼の心が乗り移ったように伸びやかな字。
瀬古瑛士
「……せこ えいじ、さん」
「うん。俺の名前」
やっと聞けた彼の名前を頭の中で反芻する。
はじめて目にする名前だ。
仕事上の付き合いかもと思ったが彼は違う。
瑛士は、ウエンツしか知らない。
彼の『それに会うのははじめてじゃないしね』という言葉が引っかかっていだが、取り越し苦労だったか。
何で彼の名前を聞いているのにわたしの名刺が必要なんだろうか、しかも2枚、と思いながらも、いつも持ち歩いている、会社から支給された名刺を2枚取り出して手渡す。
「へぇ、この食品メーカーに勤務してるの? 俺、カレーみそワカメラーメンけっこー好きだよ。小野田すみれさん」
「貴重なご意見ありがとうございます」
フルネームで名前を呼ばれることはなかなかない。
「いえいえ。あ、あとボールペンも貸してもらえます小野田すみれさん」
ペンポーチからボールペンを出し、貸す。
すると彼はわたしの名刺を1枚はスラックスのポケットにしまい、もう1枚は裏返して白紙の面に何かを書き始める。
すぐに「はい」と渡され「あ、どうも」と名刺を受け取り、それに目を通した。
彼の心が乗り移ったように伸びやかな字。
瀬古瑛士
「……せこ えいじ、さん」
「うん。俺の名前」
やっと聞けた彼の名前を頭の中で反芻する。
はじめて目にする名前だ。
仕事上の付き合いかもと思ったが彼は違う。
瑛士は、ウエンツしか知らない。
彼の『それに会うのははじめてじゃないしね』という言葉が引っかかっていだが、取り越し苦労だったか。