さまよう爪
小走りというよりほぼ、走ったお陰でわたしたちは何とか終電に間に合った。

息が上がる。心臓がドキドキする。

瀬古さんとは路線が違った。

「じゃあおやすみなさい」

「今日も、ありがとうございました。おやすみなさい」

また会える? とか、また会いましょう、とかは言わなかったし言われなかった。

何となくそのうちまた会えるような気がしながら電車に乗り込んだわたしの心臓は、まだ少し、鼓動が早かった。
< 59 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop