意地悪上司は私に夢中!?
いつもより念入りにお化粧をして、かわいい服を選んで、外へ出た。


永瀬さんの車は黒のレクサス。

昼間見ると、このオンボロアパートには全く似合わない高級車。

「お待たせしました」

「おせーんだよ女の準備は」

「女は色々大変なんですっ」

ちゃんとデートっぽい恰好したのに、そこは無視なの!?

納得いかない!

ふっと呆れたように笑って、永瀬さんは車を発進させた。

「どこ行くんですか?」

「…ナイショ」

サングラスをかけ、運転している永瀬さんをちらっと横目で盗み見る。

運転中の男の人は2割増しでカッコよく見えると、戸田さんが前に言っていた。

その気持ちが今はよくわかる。

いや、元々かっこいいから2割増しとか関係ないのかな。

…なんでこの人、私のことなんか好きなんだろう。

絶対モテるのに。


「…お前それ、…かわいいじゃん」

最後のほうがよく聞こえなくて、え?と聞き返した。

だけど永瀬さんは黙り込んでしまったまましゃべらない。

「え?え?一体なんなんですか?
気になるんですけど」

「ああ、くそっ…かわいいって言ったんだよっ」

投げやりに声を荒げる永瀬さんにドキッとしながら、頬が熱くなるのを感じた。

「…あ、ありがとう…ございます」

急に車の中が緊張ムードになる。

永瀬さんの口からかわいいなんて言葉が出てくるなんて。

普段だったらありえない。

私、夢を見てるんじゃないだろうか。


移り変わっていく車窓の景色。

ビルが途切れたと思ったら、今度は山道を上り始めた。

「どこ行くんですか?山登りなんかして」

「まあ待てよ。もうすぐ着くから」

「虫がいるところは嫌ですよ?」

「こんな山頂でなんか車降りねーよ!」



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