風と今を抱きしめて……
　大輔と真矢が会話をしたのはその日の夕方だった。

　足早にオフィスを出ようとした真矢は大輔と出くわした。

「昨日は失礼しました」

　慌てて真矢は深々と頭を下げた。


「誰だっけ？」

　大輔は首を傾げた。

　真矢は、大輔が昨日の空港での出来事を覚えていない事にほっと胸をなでおろした。


「川上真矢です。ろしくお願いします」

　あらためて頭を下げた。


　大輔は、表情を変えず真矢を見た。


「一軒の来客に時間の取り過ぎだ。グアム二名にどれだけ時間かけているんだ。お前の説明には無駄が多すぎる。おばさん達の世間話の場所じゃない。話ししたきゃ喫茶店にでも行ってやってもらえ。メールで済ませられる事はメールで済ませろ。」

　と、淡々とまくし立てた。


　自分の接客を否定された、真矢の表情は険しく変わった。


「お言葉ですが支店長、田口様は必ず又、ご夫婦で旅行されます。ご婦人達は次は必ず家族を連れて旅行されます。大学生達は次の旅行はメールで済ませる事ができます。必ず皆さんまた、行こうって思うはずです。」

　真矢は、力強く言い返した。


　大輔はチラっと横目で真矢を見た。

「偉い自信だな。俺はただ、無駄な話を省いて分かり易く適切な説明で、もっと数を上げろと言っているんだ。まあ、平日に空港で何時間も飛行機見てぼぅーっとしている暇な奴には訳がわからないだろうけどな！」

　大輔は、嫌みたっぷりの笑みえを浮かべて立ち去って行った。


　真矢はすぐさま

　「昨日は休暇で‥」

　と言いかけたが、大輔の姿はもうなかった。



　昨日の事を大輔が覚ええいた事に、真矢は肩を落とし片手で頭を押さえた。
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