風と今を抱きしめて……
 店を出ると、もう外は暗くなっていた。

 歩道にはこれから飲みでも行くのであろう人達でにぎわっている。

 真矢のアパートは、この近くの駅から二駅ほど離れていた。



「お前! どういうつもりだ!」

 突然、男の罵声が聞こえてきた。


 隣の居酒屋からの声で、大輔は気にも留めなかったのだが……


 大輔の腕が、なにかにギュッと押された。

 
 真矢が掴んだのだと、すぐに気付いた。



「真矢、大丈夫か?」

 一郎の言葉と同時に、まるで罵声から守るように真矢の横に谷口が立った。


「ええ……」

 真矢の顔は青ざめ、大輔の腕を掴んだ真矢の手が微かに震えていた。


 大輔は何が起きているのか、全く見当が付かない。


 真矢の怯えた顔と、谷口の俊敏な動きに、大輔の知らない何か異様な物を感じた。


 大輔は、震える真矢の手に力強く自分の手を重ねた。
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