風と今を抱きしめて……
 次の休日に、ユウは谷口を呼んだ。

 車に真矢を乗せ、子供用品の大型店へ向かった。

 今度はベビーカー、ベビーベッドなど大きな物を買い揃えた。


 ユウと谷口が選んでくるものを真矢に却下され、二人はバタバタと店内を走り回っていた。

 ユウも谷口も、楽のしそうに笑顔を真矢に向けた。


 帰りの車の中は、トランクに入りきらなかったベビー用品の中に、小さくなってユウが座る始末だ。

 谷口が、出産前に栄養をつけた方がいいと提案した。


 一度アパートに戻り、真矢と荷物を下ろすと、ユウと谷口が、大量の焼き肉材料と米まで買って戻った。

 夕食に焼き肉を三人で食べる。

 真矢に「食べろ、食べろ」と言いながら、ユウも谷口もよく食べていた。


 二人につられ真矢もよく食べた。

 ユウは最近、真矢が冗談なのか天然なのか面白事を言う事に気が付いていた。

 真矢の発言にユウが突っ込み、谷口が腹を抱えて笑う。


 三人に、おだやかな楽しい時間が流れていた。

 ユウは自分に、こんな穏やかな時間が訪れるなど、思ってもいなかった。


 しかし、胸の奥に沈んでいる暗い闇に、決して光りが指す事は無かった。 
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