その男、極上につき、厳重警戒せよ


「女将でございます。どうぞよろしく。……こちら、お通しでございますわ。これからお食事のほう進めさせていただきますが、何か食べれないものはございませんか?」


最近のお店はアレルギーや好き嫌いに対応してくれるものらしい。予約じゃなくてもそういうの聞いてくれるんだと思ったら不思議な気がした。


「大丈夫です。なんでも食べられます」

「まあ、若いお嬢さんなのにしっかりなさっているのね。ではお待ちくださいませ」


女将さんは、深山さんには聞く気がないらしく、ちらりとだけ視線を送って、食前酒の杏酒を置いていった。

綺麗な琥珀色に嬉しくなってぺろりと舐めてみる。甘酸っぱい味が口に広がり、自然に笑顔になってしまった。目の前の深山さんは、杏酒の登場で途端にリスみたいになった私を、呆れたように眺めてため息をついた。


「……のんきなだなぁ」


流石にカチンとくる。イケメンだから許されているようなものだけど、これってほぼ拉致だからね?


「さっきっから失礼じゃありませんか? 見知らぬ男性に拉致されましたって、警察に行っていいです?」

「拉致とは穏やかじゃないな。別に赤の他人ってわけでもないだろうに」

「赤の他人でしょう」

「名前知ってるだろ? 知り合いじゃん」

「受付で出会っただけの人は、知り合いと言うよりは通りすがりです。それにたまたま覚えていたけど、受付する人を全員覚えているわけではないです」

「マジか、記憶力悪いんだな」

「いきなり馬鹿にするとか、どういうことなんですか」


この人、結構失礼かもよ。
本当は取引のある会社の社長なんだから、こんな言い方しちゃいけないんだろうけど、あまりの非常識ぶりに猫をかぶっているのも嫌になってしまった。
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