その男、極上につき、厳重警戒せよ


「悪かったよ。まあ機嫌を直して。……顔を見たのは今日が初めてだよ。君は咲坂静乃さんであってるかな?」

「はい」

「受付にいたからびっくりしたんだ。配置転換は自分からの希望?」

「はい」


何だろう、……尋問?
なんでこんなことを、今日会ったばかりの人に聞かれるの?
一応素直に答えているけれど、どうしたって怪訝な表情になってしまう。


「……警戒心の塊って感じの顔だな」


しばらく黙っていたら、クスリと笑われる。

警戒しないわけないでしょう。
私、この人のこと何も知らない。なんでここに連れてこられたのかもさっぱりだ。

格好いいから、一緒の空間にいるだけで恐れ多い気がしているけれど、嬉しいというよりは恐怖感や不審のほうが大きい。


「とにかく自己紹介をしておこう。俺は深山貴誠。Webセキュリティ管理を専門とする【フェンス】という会社で、一応社長をしている。君の会社……【TOHTA】とも取引があるし、遠田社長とはそれ以外にも縁があって、個人的に親しくしてもらっている。まあ客先の心証を悪くするようなことはしないから、その点に関しては安心してくれ」

「はあ」

「まずは食おう。ここだと料理を楽しまないと俺が殺される」


深山さんがパン、と手を打つと、待ってましたとばかりにふすまが開いた。
やって来たのは、四十代くらいの和服の女性だ。鼻筋がすっと整っていて、背筋がピンと伸びた姿勢の綺麗な女性。お盆を脇に置き、私ににっこりと微笑んだ。

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