その男、極上につき、厳重警戒せよ
「まあ、君の記憶力をどうこういうのは失礼だったな。二、三、聞きたいことがある。それは君の会社の今後を左右することだから、ちゃんと答えるように」
「はあ」
会社に関することをどうして私に? とは思うけど、話は聞いてみなきゃわからない。私は黙って彼の唇が動くのを見つめた。
「……君はいくつ?」
いきなり会社と関係ないことを聞かれて、調子が崩れてしまう。
「女性に年を聞くって失礼じゃないですか?」
「俺より若いんだろ? だったら失礼でもないだろ。ちなみに俺は三十一だ」
「……二十四です」
なんか、言いくるめられるな。
突っぱねてもいいような質問ばかりされている気がするんだけど、逆らえないのは何故かしら。
イケメンってあらゆる意味で得だわ、ずるい。
二十四ね。と言いながら、目はなにかを考えているように鋭い光を放っている。
「どういうつもりで【TOHTA】で働いている? 全くの無自覚の阿呆なのか、策士なのかどっちだ」
顔がこわばったのが分かった。
【TOHTA】に勤めていること自体を他人に非難されることなどありえないと思っていた。ましてこんなただ一度顔を合わせただけの人に。
彼は私の顔が歪んだのを見逃さず、畳みかけるように言った。
「……全く無自覚ってわけじゃなさそうだな」
「何のことですか?」
しらばっくれようとしたところで、そこで、女将さんが再び入ってくる。
私たちの間の緊迫した空気に女将さんは眉をひそめたけれど、明るい声で今日の食材の説明をして出ていく。
よけいな詮索をしないあたりは慣れているんだろうなと思わされた。