その男、極上につき、厳重警戒せよ
ふすまが閉まってしばらくして、彼は再び口を開く。
「食えよ」
「食べる雰囲気ですか?」
「食わなきゃ後が怖いんだよ。……警戒するなよ。別にアンタを脅そうとかそういうことを考えているわけじゃないんだ。食事に関しては楽しんでくれ」
「そんなこと言われたって無理です。急にこんなところに連れてこられて、訳の分からないことばかりで」
「それもそうか。でも、……どこまで言ったらいいもんか」
彼は困ったように首のあたりを書くと、考えをまとめるようにゆっくりと話し出す。
「俺は、遠田社長からWebセキュリティの解析を頼まれている。二ヵ月前からだ」
「顧客情報の漏れがありましたもんね」
「それは知ってるのか。そんなにお花畑でもないんだな」
「自分の会社の不祥事くらい知ってますー!」
憤然としながら、目の前のお刺身をいただく。
あ、おいしい。舌の上でとろけるような触感。
駄目だ、怒りが続かないわ。
片親とはいえ、母親は豪胆で裕福で、苦労知らずで育ててもらったので、私はちょっとぼんやりした性格なのだ。
思わず頬を緩めてしまったあと、慌てて真顔を作る私を見て、目の前の深山さんは堪えきれなくなったように笑い出した。
「はっ、はは。ダメだ。君は策士じゃなくバカのほうだな」
その笑顔には、目を奪われてしまった。
だってさっきまであんなに怖かったのに、何その無邪気な笑顔。ずるくない?
「さっきから失礼ですよ!」
「この場合は褒めてるんだよ。策士だったらどうあっても君を会社から追い出すつもりだった。……じゃあ、君の頭でもわかるように順序だてて聞こう。なぜ俺が君を連れ出したかわかるか?」
私は首を振る。
それが現在最大の謎だわ。