その男、極上につき、厳重警戒せよ

「……本当に知りません。ただ、……疑ってはいます。私の父が、社長なのではないかと」


でも私も確信はない。
輪郭以外の顔のパーツが私とよく似た社長。母の通帳に、定期的に振り込まれていた『トオタ マモル』からの振り込み。それは、私が生まれて数年経ってから、母が死ぬまでずっと続けられていた。

逆に言うと私が持っている情報はそれだけだ。
それが、彼を父親だと決定づけるものであるかは分からない。

深山さんはようやく満足そうに頷いた。


「よろしい。今度は本当のようだな」


セキュリティ対策を専門とする人はこんな尋問官みたいな言い方をするものなのかしら。鋭い観察眼はいいけれど、責め立てられるこちらとしては、まるで犯人扱いされてるみたいで落ち着かない。

途中お茶を入れに女将さんがやってくる。あまり進んでいない私たちの食事を見て、眉を顰め、唇を尖らせた。


「貴誠。うちのお料理はおいしく食べてほしいのよ。難しい話をなさるなら他所でしてくださる?」

「ああ悪い悪い。ほら、早く食えよ。女将にこんな顔されちゃ、今後この店を使いにくいからな」

「はあ」


追い立てられて、食欲は湧かないものの口に入れてみる。
おぼろ豆腐がゆずの風味とともに広がって、思わず「うわ」と声を出してしまった。


「どうですか?」

「おいしいです! こんなにおいしいお豆腐食べたの初めて」

「まあ良かったわ。ほら、こんなに素直に食べてくれるお客様、いじめちゃ許しませんよ? 貴誠」

「分かった。分かったが、こっちは大事な話をしているんだ。しばらくふたりにさせてくれ」

「はいはい。どうぞごゆるりと楽しんで召し上がってくださいね。この人がいじめるようなら私に言ってくださいな」

「あ、ありがとうございます」


思わぬ味方を得て、私は縋りつく勢いで頭を下げる。
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