その男、極上につき、厳重警戒せよ
それにしても、客と女将の会話にしてはどうなの……と思って深山さんをじっと見ていると、彼はバツが悪そうに、眉をひそめた。


「店名でバレているだろうとは思うが、母だ」

「えっ」

「本当ですよ。貴誠が女の子連れてくるなんて珍しいから、ついつい自分が出てきてしまったの」


うふふ、と笑う女将さんはこんな年齢の息子さんがいるようには思えない。


「うそっ、いくつの時の子ですか。女将さん、まだお若いじゃないですか」

「あら。あなたいい子ね」


女将さんが前のめりになろうとするのを、深山さんが止めた。


「若作りなだけだ。いいからあっちに言ってろよ。今日の俺は客だ」

「はいはい。後でゆずのシャーベットを持ってきますから。それまでにちゃんと食べておいてくださいね」


女将さんは、深山さんに追い立てられて出て行ってしまう。ああおいてかないで。お母さんだっていうなら、一緒に話を聞いてほしいくらい。
懇願するような顔を見られたのだろうか。「君は本当に考えが顔に出るな」と呆れたように言われた。


「だって、深山さんと二人きりなのは怖いです」

「母親の店で女を襲ったりしない。ここを選んだのは君の警戒心を解くためでもある」


だったら先に親だって教えてくれればいいじゃない。
恨みがましく見ていたら、彼は困ったように続けた。


「その素直さはいいところともいえるが、あの会社で受付にいる分にはちょっと危ないんじゃないか」

「どうしてですか?」


深山さんは腕組をすると、私を舐めるようにみた。
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