その男、極上につき、厳重警戒せよ

「ここからは機密情報なんだ。おいそれと教えるわけにはいかないんだが、かいつまんで言うと顧客情報を盗んだ奴の目的はは、情報じゃなく、社長個人に対する恨みを晴らすことだ」

「はあ」

「もちろん、うちの会社で対策したから、これ以上の不正アクセスなど起こさせないし、現状のサイトにあるセキュリティホールもすべて見つけだした。だが、どうしようもないセキュリティホールが、よりにも寄って目立つところに居やがった」

「……それって」

「そう、君だ。社長に顔のよく似た君が受付しているのは、あらぬ噂を立てる火種になる。はっきり言おうか。社長の存続を望むなら、君はもっと目立たない部署に配置換えしてもらうべきだ」

「嫌ですよ、そんなの。他所の会社の人に口出されることじゃないです」

「……ぽやっとしているくせに言いたいことは言う口だな」


そんなこと言われても、受付にいるのは、私のささやかな復讐なのだ。

母が死んで、私は母の遺産のすべてを管理しなければならなくなった。

ところが私は、母の生前、何も教わってはいなかったのだ。
母ひとり子ひとり。親類もいないという状況だったのに、母は私に、お金の心配を何ひとつさせなかった。

『株で儲けているのよ』と言いながら笑って、『アンタは笑っていてくれたらいいの。私が元気になれるじゃない?』なんて誤魔化し続けて、私には金銭管理をさせてくれなかったのだ。
もちろん、それで大学も卒業できたのだから母には感謝しかない。

でも母が死んで、通帳を確認して初めて、私は『トオダ マモル』が母に毎月送金し続けていたことを知った。
母が、金銭管理をさせてくれなかった裏には、この名前を私に知られたくなかったという意図があったのではないかとすぐに察しがついた。

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