その男、極上につき、厳重警戒せよ
その、自分を上げる言動はいらないと思うけれど。
私を推薦したのは社長? それとも、深山さんがなにか言ったのかな。
どちらにしろ、私をこの会社の受付から消すための辞令ってことだ。
だったら私に、選択権なんてないんでしょう。
「分かりました」
「相手方に失礼のないようにね。十時に迎えに来られるということだから」
「はい」
こんなこと、普通だったらあり得ない。
出向先には自分で行くものだ。迎えに来てもらうなどどんなVIP対応だ。
だとすれば、やっぱり社長が、父なのだろうか。例え深山さんと社長がどれだけ懇意だったとしても、ただの一般社員のことで社長が動くわけがないもの。
私はとりあえず自分の荷物を片付けた。
たかだか三日間の出向ならば別に持っていくものもないけれど、なんとなく私物を置きっぱなしにしているのも気になる。
「急にびっくりだよね」
「西木さん、すみません」
「咲坂さんが悪いわけじゃないよ。部長、今日の受付私一人ですか?」
「いや、高森さんに頼もうか」
私がひとり抜けたとしても会社の穴はすぐに埋まる。組織として、それは正しいことだと思うけれど、私がいなくても会社は回ると思ったら、なんだか寂しい。
指定の時間に受付のところで待っていると、エントランスの自動ドアが開いて、美しい笑みをたたえた深山社長が登場する。社長自らのお迎えとは驚きだ。
「やあ、急で悪かったね」
「……本当ですよ」
「強引にやると言っただろう」
それにしたって強引過ぎる。会社の人事まで操るなんて。
「だからって受付が出向とか聞いたことないですよ!」
「前例がないからおかしいってのは考え方として間違っているだろう。人のやらないことをするのが新規ビジネスだ。なにがおかしい」
全部おかしいわよ。言いくるめてるだけじゃない。
私たちの親し気な会話を聞いて、西木さんが不審そうな顔をする。
勘ぐられるのも嫌で、私は深山社長を追い立てるように外に出た。