その男、極上につき、厳重警戒せよ
「おい、なんだよ。押すな」
「だって。大体迎えになんて来なくても地図があれば行けます」
「それじゃあ君は逃げるだろう。おい、どこに行くんだ、こっちだ」
「え?」
駅のほうに向かおうとした私に、彼は指先で鍵を回して見せた。
「車で来てる。駐車場はこっちだ」
「車で?」
「とにかく乗れ。うちにいる三日間のうちに、君の疑問はすべて解消してやるよ」
そう言われてしまっては、おとなしくなるしかない。
そんなわけで私は、三ナンバーの高級セダンで、ほど近い高層ビルの駐車場まで連れていかれた。
「意外と近いですね」
車じゃなくてもいいんじゃない? って思うような距離だ。社長ってやつはどこも贅沢だなぁ。
「俺らは機密情報を扱うことが多いからこれでいいんだよ」
ああ、セキュリティ管理の会社だからか。
そりゃ機密文書とか持っているならば警戒するのかもしれないけど。
「でも今は何も……」
「ホントに自覚ないんだな」
彼の指先におでこをつつかれて、ようやく私自身が機密情報だということを思い出した。
「……やっぱり社長が父なんですか?」
「ひとつ聞くが、君はそうだったらいいと思っているのか? もし違った場合のことは考えているのか?」
「それは……」
私は息を飲んだ。
母の通帳に社長の名前を見つけてから、私は社長が父だと九十九パーセントくらい信じている。残り一パーセントは、たぶん、本人に肯定してもらわなければ埋まらないだろう。