その男、極上につき、厳重警戒せよ

「だって、そうでなきゃあり得ないでしょう? お金がずっと振り込間れていたのよ? 他人にはしないわ……」

「そうかな。例えば、社長が何らかの弱みを君の母親に握られていたとしよう。それならば口止め料を払い続けるのでは?」

「そんな人の娘だったら、会社で採用なんてしないでしょう?」

「わからんぞ。あれだけの大企業だ。しかもTOHTAは別にワンマン会社なわけじゃない。息子が専務にはなっているが、あれは実力だと言われているし、副社長も古くからの社員だ。社長の声がすべてに届くわけじゃない。採用に関しては人事まかせにしているかもしれないだろう」

「だったら」


私のしてきたことなんて無意味だ。小さな復讐は、社長が小さな痛みを感じてこそ意味がある。娘だなんて気付かれてもいなかったんだとしたら、私は空回りしてるだけだ。


「……っ」


もっと言い返してやりたいって思っているのに、言葉は形にならなかった。

喉が熱くて、歯を食いしばってないとなにかがこみ上げてきそうだ。何やっているのよ、これからこの人の会社に行くんでしょう?
こんな半泣きみたいな顔でいけないわよ。

はあ、とため息が聞こえる。
深山さんもきっと呆れているのだろう。こんな何でもできそうな人には、私がやっていることなんて馬鹿げて思えるに違いない。

と、シートベルトが外されたと思ったら、頭を深山さんの固い胸に押し付けられた。
一体何が、と考える余裕なんてなくて、スーツ独特の香りに混じった彼の体臭に頭がいっぱいになる。

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