その男、極上につき、厳重警戒せよ
「大体、回りくどいんだよ、君がやってることは。そういう時は本人に聞けばいいだろう。君がすっきりできないのは、勝手にこうだろうと結果づけて、確かめようとしないからだ。自己完結は自己満足しか生まないぞ。……ああ、自己満足さえ生まれてないか」
「だ、だって。相手は社長だもの。どうやったって近づけない。あっちから近づいてきてくれない限りは」
「だから受付だったのか?」
重役出勤してくる社長なら、例えを声をかけずとも、受付にいる人間の顔を見るだろう。
気付いてほしいと、小さな念を込めて私は毎日彼を見つめた。
復讐心と思慕。
両方を抱え持っているのは苦しくて。そこから身動きが取れなくなった。
ねぇ、お母さん。
あの人は本当にお父さんなの?
どうして私に何も教えてくれなかったの。
写真のは母は何も答えない。白々しいほどの笑顔だけを向けてくるだけだ。
私はどうして生きている間に自分の父のことを聞かなかったのだろう。そんな後悔をしても、もう遅すぎた。
そして私はお門違いだと分かっていても、母を少しだけ恨んだ。
どうして私に、生きる力を与えてくれなかったの?
甘やかすだけ甘やかして、生き方を教えてくれなかったの?
二十歳を過ぎていて、何を甘えたことを言っているんだとは思っている。
だけど私、独りぼっちになって初めて知った。
ひとりは、こんなに寂しいんだって。
お母さんが、今までどれほど私を勇気づけていてくれたか、支えてくれていたか。