その男、極上につき、厳重警戒せよ
引っ付いて泣かせてもらったのは十分くらいだっただろうか。
深山さんの携帯が鳴って、私は慌てて離れた。
彼は小さく舌打ちすると左手で私の頭を掴んだまま、「はい?」と不機嫌そうな声で電話に出た。
『社長。桶川さんが、遅いって言ってます』
聞こえてくるのは女の人の声だ。
「もう地下にいるよ。すぐ行くからおとなしく待ってろって伝えて」
『GPSで探索してます。地下で反応が消えてから動かないので怪しんでいますがどうします?』
「給料減らすぞって言っておいて」
これ、社員との会話なんだって思ったら、うちの会社との違いに驚いてしまう。
クスリと笑ったら、私が泣き止んだと思ったのか、深山さんはようやく離してくれた。
「……あのさ、三日間の出向は嘘じゃないんだ。うちに新しく受付の女の子が来たんだけど、事務はしたことあるんだけど受付経験はないらしくて。指導してやってくれない?」
「え? む、無理ですよ。よその会社のことなんて私のほうが教えてもらわなきゃわからないです」
「受付としての一般的なことだけ教えてくれればいいんだよ。できる子だから、すぐ自分のものにするはずだし」
深山さんにそんな風に言われるなんて、信用されているんだ。
そう思ったら、胸がずきっと痛んだ。どうして? 私は何に傷ついているんだろう。
「ほら、行くぞ」
車を降り、そのままエレベータに乗り込み、十五階へと向かう。