その男、極上につき、厳重警戒せよ

「今日から三日間、高井戸の指導に来てもらうことになった咲坂静乃さんだ。直接かかわることはないだろうが、よろしくな」

「よ、よろしくお願いします」


慌てて頭を下げると、何人かの男性がからかうように笑った。


「社長、ちょっかいは出してもいい感じ?」

「落とせるもんなら落としてみろよ」


と私の肩を抱く。一瞬周囲がざわつき、「なんだ、社長のお手付きかー」なんて囁く声が聞こえる。

ち、違うのに。
どうしてこの人は周囲に誤解を招くような言い方をするの。


「じゃあふたりはお互いに教えあってやってくれ。高井戸さんは咲坂さんにうちの会社のことを。咲坂さんは、一般の受付業務のやり方を教えてくれればいい。うちの会社はそもそも来客は少ないんだ。他の会社のセキュリティ管理をする以上は相手方に行って作業することのほうが多いし、打ち合わせも電話かメールがほとんどだから、さらっとでいいよ」

「はあ」

「午後から来客がくるから、その時に成果を見せて」

「はあ?」

「じゃあ俺は別の仕事があるから」


あっさりと私を放って、別の部屋へと言ってしまう。
残されたのは高井戸さんと私。二十七歳には見えない丸顔に、人なつっこい笑みをのせて私に向けてくる。


「あの、……なんか急に言われて、私実は訳が分かってなくて」

「あー、私もですよー。なんか訳ありみたいですよね。でもせっかくなので、受付業務について教えてください」

「でも二十七歳ってお伺いしました。前にもどこかでお仕事されているんでしょう? 私なんかが教えるよりずっと……」
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